週末、市内某所。
ここはラテンを踊って楽もうという面々が集うパーティー会場。
夕暮れと共にひとりふたりと客が店に入ってくる。
この店を訪れたのは今夜が始めてだ。待ち合わせている友人はまだ着いていない。
冷たいビールでも飲みながら待つとしよう
音楽がアップテンポでにぎやかになる。これは聴いたことがある、メレンゲだ。
2拍子の躍動的なリズムに合わせて何人かの男女がフロアで踊りだす。
ラテン系のトロピカルダンスと一括りでいうのはちょっと強引なのだが、音楽の発祥と同じくお国柄が表れていてとてもカラフルだ。
ドミニカ発祥のメレンゲはアフリカのリズムの影響を受けていて、踊りも素朴で生命力に溢れている。
単純だがハマる。誰でもすぐに踊れてしまう楽しさが大人気の理由。
ホーンセクションで曲が変った。まるでジャズのビッグバンドを思わせるクラシックな雰囲気。
スムーズな演奏に誘われるように、スーツの男性がシックな黒のワンピースの女性と踊り始めた。
品のあるステップと優雅な女性のターン。サルサのON2スタイル。NYスタイルとも呼ばれている。
サルサという音楽がNYで産まれたころ、ダンスもまたNYで誕生したとか。
当時のラティーノ達もこうやって踊っていたのかとひとしきり妄想…
トレスギターの響きに我に返る。キューバ産の音楽、ソンだ。
キューバのソンがNYに渡り、プエルトリコ人ミュージシャンによってサルサが産みだされた。
いわばサルサのルーツの一つ。サルサのON2よりも、さらにゆったりとした動きが心地よい。
キューバは音楽もダンスも独自の進化を遂げていて、彦麻呂的にいえばエンタメの玉手箱や!というところか…
印象的なイントロが流れる。キューバの国民的バンド、ロス・バン・バンのヒット曲。
ロックにも思える強烈なグルーヴにフロアが盛り上がる。
誰からとも無く男女のペアが集まって、大きな輪になり踊っている。
まるでフォークダンスのようだがトリッキーでスピード感のある動きに思わず見入ってしまう。ルエダというキューバンスタイルのダンスだ。
ダメという大きな掛け声。どうやら女の子を次のパートナーに渡す合図らしい。今の女の子とさよならをすると、次の女の子が待っている。素晴らしい。
サルサやラテンダンスを楽しむクラブでは、一曲ごとにパートナーを変えて踊るのが普通らしい。
ラブラブのカップルは例外だけれども、そのときDJが選んだ曲で踊りたい相手を決めて誘い、一緒に音楽を楽しむのだ。
初対面であいさつがてら一曲どうですか、というのも珍しくはない。会話よりも踊ったほうが性格がわかっちゃうの、というのはクラブ常連の弁。
赤いスカートの女性が弾けるようにステップを踏み出した。とてもテンポの速いサルサ。
眼鏡をかけた男性の大胆なリードで華やかなダンスが始まった。ON1スタイルのサルサ、別名LAスタイル。
ロス発祥でショーダンスの本場、ハリウッドの影響をうけているとか。アクロバティックなリードに憧れるダンサーも多い。
曲の最後に女性はキラキラ光るハイヒールで何度もターンを決めた。羨望のためいきがフロアにもれる。素敵に踊るなあ…
バチャータの旋律が流れ、そのもの哀しいギターの音に耳を傾ける。ぼんやりと踊っているペアを見ていると波にゆられているようだ。
二人が浜辺で踊っているところを想像してみる。とてもロマンティックな風景。バチャータもまたドミニカ産の音楽だがヨーロッパ圏の影響が生み出したもの。
トロピカル圏の音楽も踊りも歴史をたどればヨーロッパ人と原住民とアフリカ人との文化のミックス…それがサルサなのか。
まだまだパーティーは終わりそうに無い。絶え間なく続く魅力的な音楽が時間の感覚を麻痺させる。
難しいことは考えないで、リズムに身をまかせてみようか。幸い友人もまだこないようだし…
先ほどの素敵な女性が声をかけてきた。「一緒に踊りませんか?」
Escrito por DJ Miyuki